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Imr (Single)
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突然のパンデミックは、音楽を取り巻く環境すらも一変させてしまった。20世紀の終わりが見えてきた頃に、テクノロジーは音楽を作るハードルを下げ、音楽を聴く間口も拡げた。ネットを介して拡散されていく音楽も、古いレコードに刻まれた音楽も、目の前で演奏される音楽も、等しく享受できた。アナログ/デジタル、フィジカル/データ、人間/機械、ちょっとした対立もそこにはあったが、いまとなっては取るに足らないことに思える。21世紀の最初の約20年間は、そうやって音楽と過ごすことができたのだ。
音楽を奏で、聴くために、人々が集い、場が生まれ、時が流れていく。その光景はいま失われているが、個が生きるリアルで小さな空間と、個が繋がるヴァーチャルで茫漠とした空間は残されている。さて、どうすべきか。テクノロジーはまだ助けとなるだろうか。想像力を鍛え、働かせよ、と思うが、それはかつて音楽から鼓舞されたことだ。
音楽を聴くことにあまり気持ちが向かわない日々が続く中、蓮沼執太フィルの“Imr”が届いた。この曲は、14名のフィルのメンバーそれぞれが、個の空間で自発的に曲作りに加わり、そこから一つの楽曲としてまとめられた。これまでの実体のあるアンサンブルを前提としたレコーディングを経ることなく出来上がっているが、作曲も演奏も聴取もコミュニケーションであることを表明するこの曲が、アンサンブルそのものを体現している。誰が、どの音が中心になることもなく重ねられたハーモニーとグルーヴが生む躍動感は、複層的にあって、まだ充分には成形されてはいない何かを讃えているかのようだ。ここから始まる新しい余地をいま聴いている。
原 雅明