蓮沼執太による『TEAM』セルフライナーノーツ
蓮沼執太チームは、ツインドラム、ツインギターと僕の5人編成の、蓮沼執太フィルの前身となるロックバンドです。2025年の11月にリリースしたアルバム『TEAM』は、「蓮沼執太の初めてのロックアルバム」としても聴くことが出来るでしょう。これまでの僕の活動の記憶、実践の根源的な閃きが詰まった作品です。少し経緯を振り返ってみましょう。
2025.11.27 at TOWER RECORDS SHIBUYA, photo by Ryo Nagata
2008年の秋に一年間かけて作ったアルバム『POP OOGA』をリリースしました。僕の人生の中でも、ひとつの作品をつくるのに一年間じっくりと向き合ったのは初めてのことでした。アルバイトをしながら、毎日実家の部屋でコツコツと作り上げた音楽です。当時「ベッドルーム・ミュージック」という用語もあったのですが、その名のとおりの制作をしていました。アルバムリリースの一年前。音楽レーベル「HEADZ」の佐々木敦さんから「うちからアルバムを出さない?」と声をかけてもらい「気合い入れてつくるぞ!」と意気込んでいたこと、今でも鮮明に覚えています。とはいえ、僕にはアルバム完成の青写真はありませんでした。アーティスティックなコンセプトもなく、ただただ作業をするだけ。でも、ヒントはもらっていました。佐々木さんから「この数年やってきた電子音や環境音のミックスされたサウンドスケープにポップな要素を入れて、蓮沼くんが出来るすべてを注入したものが聴いてみたい」という提案をいただいていました。そして、じっくりと時間をかけて、自分も満足いくアルバムが無事に出来上がりました。
2009.10.20 at O-nest
とにかくアルバムを完成させることだけを考えていたため、どうやってこの作品をライブで演奏したら良いのか、わかりませんでした。ラップトップから電子音を出力するだけでは、音のパレットは足りないし、音楽的な感性を作ることが出来ない。自分自身を納得させるライブ・パフォーマンス、コンピューター・ベースで作られたこのアルバムの楽曲を演奏するため、旋律やリズム的な要素を楽器にあてふって、すべて生演奏することにしました。そして、ギターの斉藤亮輔くんと石塚周太くんに僕の部屋に来てもらって、コツコツと楽器用にアレンジをしていく作業をしました。今となれば、この孤独な作業が、チームの、そしてのちの「蓮沼執太フィル」への楽曲化の大切なステップに繋がっていたと言えるでしょう。
2012 at CCOO OSAKA CONPAS
他者と音楽を一緒に演奏することを、僕はチームの活動をするまで、まったくやったことがありませんでした。自分の内側から生まれてきた音楽的な要素を他者に伝えていくこと、音を合わせて演奏していくこと、そのすべてが初めてのことでした。良い意味でも、悪い意味でも「常識を知らない」という状態でした。僕の出自はそもそも音楽ではなく「音」で、それがアルバムをリリースするごとに「音楽」との対話となり、次第に自分以外の人々との対話も始まっていきました。「チーム」という集まりは、音楽的には「ロック・ミュージック」の形式をとっているのですが、僕にとって人生で初めて組んだバンド!と言っても過言ではないと思います。リハーサルのためのスタジオ予約だったり、ライブハウス出演をした後の出演料の分配など、まったくわからないでやっていました。その都度、メンバーに教わっていきながら、難を凌ぎながら。バンドというのは良いもので、孤独に自分ひとりで考えなくても相談したら、それが音楽になったりもします。自分の音楽が他者と交わることで広がっていき、自分が硬くこだわっていた部分も柔らかくなったり、または柔らかい部分が鋭く硬いものに変化していったりしました。
2019 at RADIO HERMES
音楽を一緒にやる上で、人間性は非常に大切です。チーム(フィルも)はメンバーがみんな優しくて、相手を想いやる心を持っています。そうした人々は気づかない声を聞き取ることが出来る耳を持っています。みんなに出会えた僕は運が良かったんですね。当時、HEADZのまわりにこのような演奏家や人々が多くいたことも偶然ではないと感じます。2008年から震災前まで、このチームでたくさん演奏をしてきました。震災前にあった「無味の明るさ」をロック的に戦っていくような意思はありました。主催したイベント『音楽からとんでみる』をレコーディングした素材で作られたアルバム『wannapunch!』というタイトルからわかるように、何か見えないものに対して「パンチをしたかった」んだと思います。それは震災前の空気だったのだと、いま振り返ると感じます。震災後はチームからフィルに発展していき、他者との関係性、人との集合と離散の繰り返しを「音楽」で表すような体制に変化していきました。
2024.09.28 at ROPPONGI ART NIGHT, photo by Kanade Hamamoto
2024年の秋に六本木アートナイトで東京ミッドタウンの屋外ライブをした時に、こんなにバンドの状態が良いのに、僕ら「蓮沼執太チーム」は録音されたアルバムが無い、ライブという一回性のために活動してきましたが、記録を残しておきたい、と強く思いました。あれから一年後の2025年秋。『TEAM』という形でアルバムに残せたことを本当に嬉しく思います。
M01 TEAMWORK
それぞれの孤独が集まることで他者を感じて協働する歓びを表した楽曲。2010年に作った楽曲で、このアルバムに収録するためにアレンジを変えて、歌を重ねました。詞はこのバージョンのために書きました。
ドアが開いて カーテン揺らす
風の気配が 君を感じる
森が生まれて めきめき伸びる
太陽の声 呼ばれる
曇り空から 朝の光を 背中に浴びて
歩き続ける 寄り道をして
「それでもいいね」時間はあるよ
集まる仲間
ある日、森の中でフィールド・レコーディングをしていました。その時の状況を、言葉で収集したような歌詞にしました。チームのメンバーへ届ける言葉でもあります。
この曲はまず、レコーディング・スタジオでバンドの録音をしました。録音は葛西敏彦さん。その時にMIDIで演奏データを残しておき、自宅スタジオでシンセサイザーでの電子音をオーバーダビングをしています。チームのツインドラム、ツインギターにザラついた質感のアナログシンセが絶妙にフィットして気に入っています。石塚くんのギター・リフの反復が細かくフレージングが異なっているのがこだわりポイントでもあるし、音色もストイックですね。反面、斉藤くんの音は鮮やかで初々しい質感。
M02 United Tee
2008年リリースのソロアルバム『POP OOGA』の1曲目に収録されている楽曲のチーム・バージョン。ライブでよく演奏していた定番の楽曲です。いつもこの曲の後に「Soul Osci」という曲を続けて演奏しています。
レコーディング中に音作りの実験をしてみよう、とイトケンさんと話しながらドラムの質感を大きく変えてみました。さらにジョン・マッケンタイア(以下、ジョンマケ)のミキシングによって、ドラムの重心が下がり、聴いたことないようなサウンドになっています。サチュレーションと一言では片付けられないようなプロセスを感じます。自分では絶対にアプローチしない音作りなので、送られてきた時に感動しました。
M03 Seneca
Tortoiseのカバー曲です。もう15年くらいライブでカバーをしています。ジョンマケとの対談を下記に貼っておきます。音楽の心臓部分にあることに共感をして、僕も演奏させてもらっています。
蓮沼:言葉がないのに、政治的なアティチュードも伝わってくる音楽。そういうものは10代の僕にとって初めてだったんです。例えばギターを持って歌えば、曲の中の言葉で表現することができますよね。あるいはヒップホップもそう。でもTortoiseの『Standards』のように歌のない音楽でアティチュードを受け取ったのは、結構な衝撃で。この作品と出会って、自分の創作行為がどう社会にコミットできるのか考えるきっかけになったし、そこまで立派なもの、力強いものでもないにしても、音を通じて自分の姿勢を打ち出すことができるんだ、と影響を受けました。昨日のライブでも、”Seneca”(『Standards』収録曲)の前にパーカッションのダン (・ビットニー) が、「これはプロテストソングだ」って言ってましたよね。
ジョン:そうだね。『Standards』を作っていた当時、僕らはもうすでにジョージ・ブッシュへの怒りを音楽に託していたと思う。ドナルド・トランプと同じくらい、ブッシュのことを嫌っていたからね。ある意味、制作時に9.11の予兆のようなものを感じていた。世界がものすごく悪い方向へ向かっている気がしていて。特に、ジョージ・ブッシュという「影」が世界中に影響を及ぼしていた……まあ、僕たちは政治的信条を強く持っているにせよ、表立って表現をしているわけではないけどね。
(「蓮沼執太がTortoiseから受け取ったもの。ジョン・マッケンタイアと大いに語る」NiEWインタビュー記事より)
M04 Gakona
この楽曲もとても古い。2009年作曲くらいだと思います。化粧を取るとボサノヴァ的ですね。ブラジリアン変拍子をツインドラムス&ギターで演奏しているような、変わった曲ですね。アルバム用にシンセサイザーの音色を5つ重ねてポストプロダクションしています。こちらもジョンマケのサチュレーション的なミックス作業が光る音の質感になっています。個人的にしっかりとスタジオ録音できたことに喜びを感じています。
M05 Triooo - VOL
チームのライブ定番曲で、ソロや蓮沼執太フィルでも楽曲が存在しているトラックです。スタジオでの1発録音のライブ感がたっぷり詰まってますね。石塚くんのギターフレーズをオーバーダビングした素材もあったんですが、やっぱり最初に録音したテイクが一番良いね!となったりもしました。3分30秒あたりが、TrioooとVOLの繋ぎ目になります。VOLパートに入っていくために、テンポが上がっていきます。ピークを迎えた部分から、ジョンマケに「ドラムとギターを歪ませてください」というリクエストをしました。見事にVOLに入った瞬間に音が歪みます。このディストーションが僕はとても好み。僕はシンセサイザーは使わずに、Fender Rhodesをスタジオで弾きました。
M06 ZERO CONCERTO
蓮沼執太フィルのために書いた楽曲をチームで演奏してみました。この曲は譜面が存在しておらず、メンバーみんなアドリブで演奏しています。ライブ・パフォーマンスは毎回即興演奏でした。歌もありますが、入るタイミングも事前に決められておらず、コード進行も共有されずに演奏が進んでいきます。ライブと同じスタイルでレコーディングも行いました。スタジオでは2度即興演奏でレコーダーを回して、素材と鍵盤MIDIを録音して、僕の自宅スタジオで2つの面白いと思った部分を足したり引いたりして、1曲に仕上げていきました。ライブ感そのままの素材をポストプロダクションによって、まったく形が異なる音楽にしていく試みはスリリングでした。バッチリ音源として落とし込めた自信があります!
M07 Blackout
2023年作曲の蓮沼執太フィル『symphil』収録曲、リフのモティーフを使った即興演奏でレコーディングされた新曲です。「とにかく禁欲的に」という指示だけは徹底をした、即興と作曲の中間をいくような楽曲にしたいと思いました。石塚くんは禁欲的すぎてほとんど弾いてないです。イトケンさんのドラムにも「淡白で!」とオーダーをさせてもらいました。2025年にチームが集まってレコーディングすると、こういう方向性になるよね!と感じます。
Art Direction by Akinobu Maeda
Artwork 00740 by SERRAGLIA, courtesy of the Artist and Galleria Heino (Helsinki)
このアルバム『TEAM』は、ロックなアプローチではあるけれど、それは音の表層部分でしかないかもしれません。Tortoiseのカバーだったり、ZERO CONCERTOのリフや展開の反復、ポストプロダクションが目立つ楽曲を捉えると、ポストロックやマスロックという音楽ジャンルの大きな川の流れの上に存在しているかもと言えるかもしれません。僕やメンバーは様々な場所、環境で音楽を作ったり、奏でています。バンド編成を組んで15年以上がすぎていて、チームのジャンルが固定されるわけなく、どんどんと変化をしていきます。人間性そのものがジャンルになっている、と言っても過言ではありません。このメンバー5人が集まることで、既存のフレームを外してアグレッシブに自由演奏ができる。その開放的な姿勢をメンバーそれぞれお互いに、許してくれる場所です。念願だったスタジオレコーディングのアルバムが完成した後、いよいよその想いを再びライブの場所で放出する時がやってきました。ライブのために編成したチームの本領発揮です!
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蓮沼執太チーム : TEAM (CD)
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